日本語の教え方

優れた日本語教師になるためのポイントとコツを教えます

012 日本語の教え方:注意点③「教室を支配する者」

今日は短めです。

テクニカルなことではありません。

 

誰が教室を支配するのか、教室の雰囲気を決めるのは誰か、という問題です。

 

結論から言うと、当然ながらクラスを支配するのは教師でなければなりません。

 

何を言っているかちょっと分からないかもしれないので、もう少し具体的に書きます。

 

生徒は、一人一人はいい人であっても、集団になると性質が異なってきます。

最初のころはそれでも、従順で先生の言うことをよく聞くと思います。

しかし、対応を間違うと立場が逆転します。

 

例えば、すでに告知してあったテストを行うとします。

その時、生徒たちはあらゆる言い訳を駆使してそれをやめさせよう、または延期させようとします。

(個人的には、この心理は全く理解できません。伸ばしたところで結局やるわけなので、悪い点を取りたくなければ勉強するしかないのですが、彼らはとりあえず今、嫌なことから逃れられればそれでいいと考えるようです。悪い点を取ることをひどく恐れているからのようですが、その割には自主的に勉強しようとはしないのです)

 

たとえば、

「忙しくて勉強する時間がなかったので次にしてほしい」(ほお、ゲームする時間はあるのに?)

「次の授業で必ず受けるから延ばしてほしい」(次の授業の時にはまた同じことを言うんだろ?)

「今やってもどうせひどい点になるから、来週まで勉強する時間を与えてほしい」(来週まで延ばしたところで同じだろ)

などのように。

 

ここで先生が、

「しょうがないなあ、じゃあ今回だけだよ、来週は必ずするからね」

などと仏の顔を見せてしまうと、生徒は

「ん? ダメもとで言っただけなのに上手くいったぞ。この先生はごねればコントロールできるんだな」

と学習してしまうのです。

そして、この体験を繰り返そうとするのです。

 

相手が一人ならまだ問題ないですが、集団となると生徒の支配しようとする意志は増大します。集団になって先生を支配しようとしてきます。

そうなると、だんだん先生と生徒の立場が逆転し、しまいには生徒がテストの時期を決め、内容を決め、ひどい時には時間さえ変えて来ようとします。

 

そうなると教室は荒れます。

ここまでくるともう修復は不可能で、クラスが崩壊するのは必至です。

 

最後に、実際にあった例を一つ書いておきます。

新人の先生(現地の30代の女性、大学で日本語を学び、その後も日本語に関する仕事をしていた)を雇いました。研修を受けさせ、新学期に新しいクラスを一つ任せました。

そのクラスは定員一杯の、私としては大切に育てていきたいクラスでした。生徒たちの雰囲気も知的な感じで期待ができました。

 

ところが、ひと月もしないうちにそのクラスの生徒たちの欠席が目立ちはじめ、さらにしばらくするとぽろぽろと辞めていくのです。

これはおかしいと思い、授業を見学しに行きました。

 

驚きました。

 

上記に書いたようなことが起こっていたのです。

生徒が声高に先生にしゃべり掛け、先生がおどおどと生徒の顔色をうかがって授業を進めていました。

何をするにも先生が生徒にやっていいかどうか聞いて、生徒がそれを許可するという感じでした。

 

こうなるともう、たとえ私が代わりに入ったとしても修復は不可能です。

生徒には、「生徒が先生を支配する」というルールがしっかり刷り込まれているからです。

 

その先生はくびにしました。

 

その大切なクラスも、どうしても勉強を続けたいという数人の生徒以外は全員やめました。

 

私にとってはこれは経営的にも大きな痛手でした。

 

だから私はそれ以来、先生の研修時に口を酸っぱくして言います。

 

クラスを支配するのは先生である、と。

決して生徒に支配権を渡してはならない、と。

 

私が描く理想的な教師と生徒の関係のイメージは、先生が黒板の前に立っていてその前に生徒たちが前を向いて座っている、という対峙する構図ではなく、先生を中心としてその周りをぐるりと生徒たちがとり囲んでいる、というものです。

 

先生が大きな吸引力を持ち、生徒たちはそれに惹きつけられている。横を見れば仲間の生徒たちがいる。

そんな関係を作りたいと思ってやっていました。

 

くどいようですが、大切なのでもう一度書きます。

 

クラスを支配するのは、教師です

 

011 日本語の教え方:注意点②「宿題について」

宿題は非常に重要です。

 

どんな勉強でもそうですが、授業を受けるだけで知識や応用力が身につくことはそうそうありません。

 

たとえ毎日学校で朝から夕方まで日本語を勉強していたとしても、教わった知識を定着させるためには、授業後の復習や練習が必要です。

つまり、自分で勉強する時間が大事なのです。

 

とはいえ、生徒の自主性に完全に任せてしまうと・・・間違いなく期待を裏切られます。

だから、生徒たちがうちで勉強をせざるを得ないように、宿題を出してあげる必要があります。

 

この宿題をきちんとやらない生徒は、力がつきません。

 

でも、困ったことに強制はできないんですよね。

生徒は平気で「忘れましたぁ」なんて言います。

そんな生徒を張り倒すわけにはいきません。

一人ひとり、うちまでついて行って机の横に貼り付いて宿題をさせることもできません。

 

じゃ、どうすればきちんと宿題をしてもらえるのか。

その方法は一つしかありません。

 

宿題の重要性を説明し、理解してもらうのです。

 

そして、宿題をする癖をつけさせることが大切です。

 

特に最初が肝心。

みんな、最初は宿題をきちんとやって来ます。

毎回、適度な宿題を出し、次の授業できちんとチェックする。

そして、ほめる。

 

これを繰り返すと、宿題をする癖がつきやすいです。

 

ところで、適度な宿題というのは、難度も量もあまり多く無い宿題です。

いろいろ出したくなるのはわかりますが、生徒が負担に感じてしまったら元も子もありません。

生徒が楽しんでできる量と内容にしましょう。

その日に習ったことを簡単に復習できればそれでいいのです。

 

また、きちんとチェックすることも大切です。

 

回収するのでも、一緒に答え合わせをするのでも構いません。

とにかく、せっかく生徒が宿題をしてきたのだから、その労に答えてあげることが大切なのです。

 

だって、もしうっかりチェックするのを忘れてしまったら生徒はどう思うでしょう。

 

「なんだよ、せっかくやってきたのにチェックしないのか。やって損した。こんなことならもうやらない」

 

と思うかもしれません。

 

だから、宿題は必ずチェックしましょう

 

生徒には、休まずに授業に参加し、課題をこなし、宿題をやっていれば、特別なことをしなくても力がつくようにカリキュラムが組まれているということを分かってもらいましょう。

 

だから、

・避けられない事情がない限りは必ず出席すること

・宿題はきちんとやること

 

この二つを最初から強めに伝えてあげてください。

 

PS

ちょっと間が空いてしまいましたが、生活に大きな変化が起こってしまいました。

もう二度と教える仕事はしないだろうと思っていましたが、再び日本語関係の教育の仕事をすることになりました。

引っ越しやら就職やら引き継ぎやらでなかなか落ち着かず、記事が書けませんでした。

010 日本語の教え方:注意点①「生徒の質問について」

今回からしばらく、授業を進める上での注意点を書いていきます。

 

本の学校では、先生が話しているときは生徒は黙って聞いています。

先生の話をさえぎって話しかけたり質問したりすることはあまりありません。

 

しかし、欧米の生徒は違います。

先生が話しているときでも、疑問があればすぐに聞いてきます。

 

日本の教育を受けてきた身としては、説明している途中での質問は、邪魔に感じられます。

 

場合によっては、質問が新たな質問を呼び、授業が中断状態になることもあります。

イラッとしますね。

 

次々に出てくる質問に答えていたら、時間がかかりスケジュールが崩れてしまう。

でも質問に答えないわけにはいかない。

とはいえ、授業を滞らせるのも避けたい。

 

では、どうすればいいのでしょう。

 

 

質問には、大きく分けて二つあります。

 

一つは、今習っていることに疑問が生じて質問をするパターン。

文法に関することなど、まあ、授業内容に直接関係する場合です。

 

もう一つは、授業と直接関係のないことを聞いてくるパターン。

例えば、こちらの言った一言で昨日ネットで見た日本に関する話題を思いだして聞いてくる場合です。

 

この二つ目の質問は、日本語を勉強し始めて間もない生徒にはよくあります。

日本語を習っていることが嬉しい上に、興味がどんどん膨らんでいって、何でも知りたい状態になっているのです。

 

この二つ目の場合、ちょっと注意が必要です。

 

まず、日本語学習者の多くは、日本語に興味があるというよりは、日本に興味があって日本語を勉強しています。

ですから、彼らが未知の日本の情報を渇望するのは、自然でもあるわけです。

 

この、ある意味健全である反応を無視したり適当にいなしたり、更には叱ったりすると、最も重要なモチベーションに悪影響を与えかねません。

 

かと言って、そんな質問にいちいち答えていたら、本来勉強する時間が減ってしまいます。

なにより、質問をした生徒自身はそのことに興味があるのでしょうが、クラスのほかの生徒たちは全く興味がないかもしれません。

 

生徒はみんな同じ授業料を払っています。

みんな、日本語を身に着けるための質の高い授業を受ける権利があります。

ですから、一部の生徒の個人的な興味を満たすために貴重な授業時間を使うことは、非常に不公平なふるまいといえるわけです。

 

ですから、この第2パターンの興味本位の質問に対しては、

 

好奇心を満たしてあげるためにさらりと答えてあげ、あとは「でも、今はこれを説明している途中だからこっちに戻ろうね」とすぐに本筋に戻る

 

のがいいでしょう。

 

繰り返しになりますが、一部の生徒の興味を満たすために本来やるべき授業内容を行う時間がなくなったりするのは、避けねばなりません。

そんなことをすれば、すぐに生徒は不満を抱きます。

 

 

 

では、一つ目のタイプの質問、すなわち授業内容に関連する質問にはどう対応すればいいでしょうか。

 

授業を進めていくうちに、優秀な生徒ほど疑問を持ちます

だから、「すみません、こう言う場合はどうなるんですか」などの質問をしてきます。

 

プロの日本語教師であるならば、それらの疑問に分かりやすく答えてあげなければなりません。

 

そもそも、準備段階でどういう質問が出るかぐらいは予想して、答え方と比較用の例文ぐらいはきちんと用意できていなくてはなりません。

 

文法事項の質問が出たら、短い時間で明確に説明する。

それができないのであれば、日本語教師としての力が足りないといえるでしょう。

 

でも。

でも、です。

 

答えられないときだってあります。

日本語のネイティブとして日本語を教えている人は特に、思いもしなかった質問を受けて戸惑うことがあります。

 

でもね、質問に答えられないことは大したことじゃないんです。

いえ、明確に答えられるにこしたことはありませんが、それと同様に重要なのは、答えられない質問を受けたときの対応です。

 

まず、答えられないときは、正直に分からないと言いましょう。

間違っても、「そんなことは知らなくてもいいんだ」みたいにごまかしてはいけません。

 

そして、次までに調べておくと約束し、次回、必ず答えるようにしてください。

 

この、次回必ず答える、というのが実はとても大事なんです。

 

ええ、実際のところ、質問した生徒本人でさえ、自分のした質問なんて覚えていません。

だから、先生が次の授業でそれに触れなくても、不満を持ったりはしません。

 

ですが、考えてみてください。

 

もし先生が授業の冒頭で

「先週、キミがした質問、調べてみたよ。そしたら・・・・・と分かった」

と説明してあげたら、生徒はどう思うでしょうか。

 

「自分の質問のために約束通りきちんと調べてくれたんだ、この先生は信用できる」

と思わないでしょうか。人によっては感動するかもしれません。

 

こう言うことが積み重なって、当事者の生徒だけでなく、クラスのほかの生徒たちと先生の絆が深まっていくのです。

 

長くなりましたが、最後に一言。

 

質問に答えられなくても、生徒は軽蔑しない。

ごまかす態度を、彼らは最も軽蔑する

 

生徒に対して、常に誠実でいてください。

それはいい教師になる大きな要素です。

 

009 日本語の教え方:ひらがな

ひらがなは、最初に教える項目であり、生徒が最初に直面する壁でもあります。

 

ひらがなをしっかり教えることは非常に重要です。

なぜなら、ひらがなで躓くと、そのあとが続かなくなることが多いからです。

 

中には、自分は読み書きはどうでもいいんだ、話せるようになりたいだけだから

文字を覚えるために時間を割きたくない、という生徒もいます。

 

もちろん、人それぞれ目指すところがあるでしょうから、そういう学習法を

否定はしません。

 

ですが、ひらがなを知らずに日本語を学ぼうとすると、大きな困難が

つきまとうことになるのは間違いありません。

 

であるならば、最初に多少時間がかかったとしてもしっかりひらがなを

学んだ方が、結局早道ですし、日本語力も高くなります。

 

ひらがなとカタカナ、そして簡単な漢字は必須です。

これらをスキップして自由に日本語を操れるようはなれません。

 

なので、教える側も、その重要性を理解してもらったうえで

根気強く教えねばなりません。

 

また、ひらがなをしっかりマスターできれば、それは生徒にとっても

大きな自信になりますし、モチベーションも上がります。

(なんといっても、ほとんどの生徒にとっては見たことのない曲がりくねった

 奇妙な記号でしかないわけで、何の規則性もありません。これらをすべて

 マスターするのはかなりハードルが高いのは当然です。しかし、

 ハードルが高いからこそ、そのハードルを越えたときに得られるものも

 大きいのです)

 

では、具体的に日本語の教え方を書きます。なお、以下は私のやり方です。

教え方は先生によって様々ですから、参考になれば幸いです。

 

・教える前に伝えること

1. 教える前に、生徒たちに日本の文字、すなわち、ひらがな、カタカナ、漢字の

  3種類について簡単に説明し、興味を喚起させると食い付きがよくなります。

2. 日本では字をきれいに書くことは結構重要であることを伝えます。

 

→ 2.について補足すると、欧米の国ではそもそも字をきれいに書くという意識は

  存在しません。彼らに取って文字はタダの記号であり、読めればいいのです。

  しかし、(きれいな字を書けるとほめられる、というような理由とは全く別に)

  日本の文字は乱暴に書くと読めなかったり誤読されてしまう可能性があり、

  せっかく覚えたのに分かってもらえないという悲しい結果を招きかねない、

  だからそれを避けるためにもある程度はきちんとした文字を書かねばならない、

  と伝える必要があるのです。

 

・手順

1. まず板書で書き順を示し、ポイントを教える

  →先生が大きくゆっくり字を書いて見せます。そのとき、画数を数えてあげます。

   一緒に、きれいな字を書くためのポイントを教えます。角度とか点の位置とか、

   ここは丸く書くときれいだとか、この下のラインを揃えるといい、とか。

 

2. 練習シートに書かせる

  →マス目だけを印刷した練習シートを与え、教えた文字を1行書かせます。

   私は1行15マスぐらいのシートを使っていました。最初の数マスには

   うすくひらがなを印刷しておいて、それをなぞらせるようにしていました。

 

3. 自分のノートに書かせる

 →練習シートのマスが一列埋まったら今度は自分のノートに同じ文字を一行分

  書かせます。「あああああああ・・・・」と。もちろん、お手本の字を

  見ながらで構いません。ですが今度はマス目はなく、なぞる文字もありません。

  上手な生徒もいれば、下手くそな生徒もいます。余裕があれば、見て回って

  赤で修正してあげてください。

 

4. 習ったひらがなを使って単語を書かせる

  →上の1、2、3の工程を繰り返し、1行(例えば「あ行」)が全部終わったら、

   こんどは自分のノートに一回ずつ今覚えた5つのひらがなを書かせます。

   「あ い う え お」と。さらに、今までに習ったひらがなで書ける言葉を

   言って、それを書かせます。例えば、「あい」、「いえ」、「あお」のように。

   そして、一つ書かせるごとに正解を板書して、意味を教えます。

   こうして書かせた単語は、結構よく覚えてくれます。

   言うまでもないことですが、この場合、彼らにとって使用頻度の高い基礎的な

   言葉を書かせます。

 

以上です。これを「ん」まで続けます。

 

【注意事項】

授業のスタイルにもよりますが、一度に教えられるのは2~3行でしょう。

文法等も同時並行で教えるでしょうから、使える時間は30~40分、どんなに長くても

1時間でしょう。それ以上やると飽きてしまいます。

 

語彙を増やすためにも、興味を持たせるためにも、覚えたひらがなでたくさんの

言葉を書かせてあげてください。

 

また、書かせたらできるだけ赤を入れてあげてください。

数名の生徒を指名して前に出させて板書させるのも盛り上がって楽しいです。

 

「ん」まで終わったら、濁音や拗音、促音などについて説明します。

濁音、半濁音は書かせる必要はありませんが、拗音は躓きやすいので、たくさん

書かせます。(しゃちょう、じゅぎょう、しょっちゅう等)

 

私の学校では、ひらがなの学習が終わったら、テストをするようにしていました。

数種類のテストを用意しておいて、80点を超えるまで、何度でもやりました

すぐにパスする生徒もいれば、何度も不合格になる生徒もいます。

不合格が続くと生徒も嫌がりますが、そこを乗り越えると自信になります。

合格したら、大げさにほめてあげてください。よく頑張ったね、すばらしい! と。

 

合格したときだけでなく、きれいに書けたときも大げさにほめてあげてください。

ほめるのが一番いいのです。

 

単語ばかり書かせると飽きてしまうので、ある程度文法が進んだら文を書かせると

いい刺激になります。「ありがとうございます」とか、「わたしのいぬ」とか。

 

最初にも書きましたが、ひらがなで躓くと後が続かなくなります。

確実に覚えさせることが大切です。それが生徒の自信にもなるのです。

だから教師も辛抱強くなければならなりません。ていねいに、じっくりと。

 

カタカナの教え方も、大筋はひらがなと同様です。

ただし、もっとスピードを上げていいと思います。(ただ、ひらがなに比べると

カタカナは苦手な生徒が多いですね)

 

以上、きわめて個人的なひらがな指導法でした

 

 

008 日本語の教え方:授業の流れ③「総合授業」

おそらく、日本語を教えている先生方のほとんどは、文法から何から、すべてを教えていると思います。

 

ある程度大きな学校では、会話専門の先生がいたり、さらに大きくなると漢字だけを教える先生がいたりすることもあるでしょう。

東京で1000名ぐらい生徒が在籍している学校では、もっと細分化されているかもしれません。週に数回、読解や作文の授業があったり、大学受験のための対策講座があったり。

 

でも、最も多いのはやはり、最初に書いた通りすべてを教えている先生だと思います。

今回は、そういう「総合授業」的なものの大まかな流れについて書きます。

少しでも参考になれば幸いです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

授業の流れは、何を教えるかという内容によって変わります。

内容は、生徒のレベルその他によって決まります。

 

例えば、ゼロから日本語を学ぶ生徒が対象であれば、平仮名を教えるところから始めなければなりません。

そのような場合、一つの例として以下のような流れが考えられます(120分授業を想定)。

 

1. 挨拶とウォーミングアップ(5~15分程度)

2. ひらがなの解説と練習(20~40分)

3. 新しい文法事項の説明と練習(1時間前後)

4. 時間的に余裕があればリスニング等。簡単なゲームも可

 

まず 1. ですが、最初の1~2回の授業では、それこそ「こんにちは」や「ありがとうございます」などの基本的な挨拶を教えて、繰り返させることになります。

生徒は日本語で何も言えないわけですから、それしかないわけです。

でも、簡単な挨拶を組み合わせることで、ごくシンプルな会話を成立させることはできます。そうすれば、生徒同士でペアを組ませて練習させてあげることができるので、生徒も喜びますね。

 

回が進めば、曜日や日付、天気等の言い方を教え、Q&Aを繰り返します。

教えたことは次の授業の導入に使うことができますね。例えば、曜日を教えた次の授業の冒頭で、

「今日は何曜日ですか?」

「明日は何曜日ですか?」

などのように。

 

曜日や日付や時間、さらに天気についての表現などは、教科書の中で取り上げられて勉強し直すことになるでしょうが、本格的に勉強する前にちろっと触れておくことが実はとても有効なのです。

 

というのも、語学の勉強は最初のころは暗記すべきことが多く、次から次へとこれも覚えなさい、あれも覚えなさい、と言われてしまうと、生徒は負担の大きさにちょっとうんざりしてしまいます。

 

でも、初期の導入で少しでも(例えば日付の言い方に)触れておくと、教科書で勉強する際にすでに少し免疫ができているわけです。

「あ、これ知ってる!」と。

 

たくさんの暗記事項を初めて見ると、これを全部覚えるのかあ、と少し嫌になります。

でも、以前に触れたことがあって、たとえ一部であってもすでに暗記していることがらを学ぶとなると、気分的にかなり楽です。

 

これは、暗記事項に限りません。

教科書で扱う文法事項も、それに先立って「便利な表現」として一つでも例文を教えておくと、新しいことを学ぶことに対するハードルがぐっと低くなります

 

授業の回数が進み、動詞が使えるようになれば、ウォーミングアップのときには

「週末何をしましたか?」などのごくごく単純な会話をすることもできますね。

 

さらに、形容詞を学んだら次の時はそれをふんだんに取り入れて、比較表現を学んだら次はそれを使って、と学んだ文法事項を取り入れたウォーミングアップをしてあげると、生徒にとっても復習になります。

 

 

ここでちょっと、ウォーミングアップの際に気にしてほしいことが一つあります。

それは、語彙についてです。

 

生徒はとにかく語彙が少ない。そんな生徒たちに取って、このウォーミングアップは語彙を増やすとてもいい機会になります。

 

例えば、週末したことを話したくても、日本語で何と言えばいいか分からない。

そんなときは、どんどん新しい言葉を教えてあげてください。

「これはまだちょっと難しすぎる言葉かな」

などと気遣う必要はありません。バンバン教えましょう。

生徒は、自分に関連したことであるほどしっかり言葉を覚えます。

週末に自分がしたこととなれば、一度教えられたらもう忘れないでしょう。

 

ただ、矛盾するようですが、生徒に役に立たないような言葉を教えるのはやめましょう。意味がありません。

 

たとえば、何か便利な表現を教えようとして先生が例文を示すとします。

そのとき、その例文に「所得証明」のような言葉を使っても、生徒はその言葉を使う機会はないわけです。

まあ、将来的にはあるかもしれませんが、それはかなり先であり、その時に覚えればいいわけです。

今、初期の日本語学習者としては、「所得証明」よりもずっと必要かつ有用な言葉がたくさんあるわけですから、そちらを使って例文を示してあげるべきです。

 

1.の補足解説だけで長くなってしまいました・・・。

 

2.と 3.は順番を入れ替えてもいいと思います。

 

 2.は、ひらがな、カタカナが終わったら、漢字に入ります。

 

3.の文法の教え方のヒントについては、またあとで書きます。

 

次回は、2.のひらがなの教え方について、私が実際にやっていた方法を書きます。

 

007 日本語の教え方:授業の流れ②「時間配分」

前回ちょろっと書きましたが、ウォーミングアップとしての導入部分は5~10分程度がいいでしょう。

 

ではそのあとはどうするか。

そのあとは、(導入部分を採用するかどうかにかかわりなく)好きなように組み立てていいと思います。

 

一つの授業の中で文法の説明と練習をして、さらに漢字も教える、というような場合は比較的自由度が高いですが、何をどの順番でするかなどは、完全にその先生が組み立てていいと思います。

それに、言うまでもなく生徒の学力によっても構成は変わります(話すのが苦手な生徒が多ければ、それに時間を多く割くことになりますね)。

 

ただ、時間配分は事前にしっかり考えておかねばなりません

90分の授業であろうと120分の授業であろうと、その授業でやるべきことがこなせるように、何を何分するか、まさに分単位で組み立てておくべきです。

 

慣れないうちは特に。

 

なぜなら、時間は必ず足りなくなるからです。

 

練習をさせるにしても、しゃべらせるにしても、読ませるにしても、先生が思っているより実際はずっと時間がかかります。

だから、予定の3分の1しかやっていないのに時間切れ、などということがよく起こるのです。

 

けれども、だからといって

スケジュール通りに授業を進めようとして先生が焦ってしまうのはダメです。

また、生徒の質問を、時間がないからと言って答えずに済ますのもダメです。

生徒が十分に理解していないのに先に進むのも、もちろんダメです。

 

でも、これらを誠実にこなしていると時間はいくらあっても足りなくなります。

 ジレンマですね。大変です。

 

だから、「003」でも書いた通り、十分な準備が必要なのです。

十分な準備をすることによって、時間が足りなくなるというような事態を避けられる可能性が高まります。

 

十分な準備とは、例えば生徒の質問を予想するところまで含みます。

 

ここでこういう質問が出るかもしれない、そうしたら、この例文を示して違いを説明してあげよう。

ここまで準備していれば、突然の質問に時間を無駄にすることも避けられます。

 

また、授業中に進捗状況を見て、あまり理解が進んでいないようであれば、用意しておいたもう一つのBプランに変えて、練習をたくさんさせる。

そうすれば、中途半端なところで授業が終わるような事態は避けられます。

 

でも、それでも思った通りには進みません。

必ず時間が足りなくなったり、逆に余ったりすることが起こります。

(時間が余った場合に備えて、常に何かネタを用意しておくことをお勧めします。ゲームのようなものでも、日本に関する知識でも、得意なものを)

 

いつか、やりたい内容を時間内にピッタリ終えられる時が来るのでしょうか。

 

来ます。

 

 それは、準備と試行錯誤と経験がもたらしてくれます。

 

情熱があれば、大丈夫です。生徒の笑顔のため、幸せのために取り組みましょう。

 

006 日本語の教え方:授業の流れ①「導入」

今回から、もう少し具体的に日本語の授業の進め方について書いていきます。

 

まず、学校によってカリキュラムはいろいろですから、それによって授業のスタイルも変わります。

 

例えば、一つのクラスを一人の先生が担当し、他の先生は代講などの特別な事情が生じない限り教えないというパターン。

 

または、文法と漢字と会話とその他(例えば「表現」とか「読解」とか)をそれぞれ別の先生が担当するというパターン。

 

さらに、授業の時間(60分か90分か120分か)、一週間のコマ数、生徒のレベル、生徒の年齢層等によっても、授業のスタイルや構成は変わってきます。

 

だから、一概にこう言う進め方がいい、とは言えません。

 

なので、今回はどんな授業にも参考になる「導入部分」についてだけ、ちょこっと書きます。

ちょっとぼやっとした内容になってしまいますが。

 

 

まず、導入が不要な授業もあります。

 

例えば、内容によって担当の先生が変わる場合は、いきなり本題に入るのがいいと思います。前置き等はいらない。

また、同じ先生であっても、毎日授業をするような場合は同じです。前置き等はいらない。時間がもったいない。

 

でも、週に1度とか週に2度しか生徒と顔を合わせないような場合は、最初に少しウォーミングアップとして雑談的な軽い会話をするのがいいと思います。

それによって生徒の心も学習に向けて準備できますし、数日間日本語から離れていた生徒は日本語の音に慣れることができます。

 

でもその際、本当に雑談をしていては時間の無駄です。

授業時間は1分たりとも無駄のないようにすべきですから、雑談であっても生徒の学力向上にとって有用でなければなりません。

 

例えば、

前回学んだ文法事項を少し混ぜながら話をするとか、

共通する分野の語彙を使って話をし、それをまとめていくとか。

 

語彙についてもう少し具体的に書くと、例えば日本で地震があったとしましょう。

そうすると、それを話題にします。

 

さらに、日本ではどんな災害があるか、とか、あなたの国ではどんな災害がありますか、とか話を進めていきます。

でも、生徒たちは災害の語彙を持っていません。

そこで、出てきた災害の言葉を板書していくわけです。

洪水、雪崩、山火事、津波、台風・・・・などのように。

自分の国でよく起こる災害であれば、比較的容易に言葉を覚えてくれます。

 

誰か有名人がなくなったら、病名の語彙を教える。

身内の人で病気でなくなった人はいますか、それはどんな病気でしたか。

 

スポーツが話題になったらそれぞれの国で人気のスポーツの名を教える。

 

料理であれば食材についてとか、はたまた動物の名とか、体の部位の名称とか、いくらでもありますね。

このウォーミングアップに語彙を使うのは、結構やりやすいです。

 

また、

生徒の年齢層が若ければ、最初の導入部分にゲーム的なものを取り入れるのもいいでしょう。

なんといっても盛り上がりますし、楽しい雰囲気で授業に入っていくことができます。

もちろん、ゲームといってもあっち向いてホイのようなものではなく、日本語を使ったものですよ。

 

もう少しレベルが上の生徒が対象であれば(日常会話に支障がないレベル)、話題になっているニュースを取り上げて、それに関して説明したり意見を聞いたりするのが刺激があっていいかもしれません。

 

アメリカの大統領選とか、ヘイトスピーチとか、大企業の倒産とか、そういう話題を取り上げて、背景を説明しつつ語彙も教えたり、生徒の国の状況をしゃべらせて便利な表現や語彙を教えたり。

 

何にせよ、事前にしっかり準備しておくのは当然です。それがたとえ数分間の導入であったとしても。

 

どんな話題を取り上げるか、どんな語彙をどのようなカテゴライズで教えるか、生徒にどんな質問をすれば答えやすいか、どんなゲームをしてその中で何を身に着けてもらうかなどなど、どれも入念な準備がなければ途中で必ず詰まります。

 

教える語彙は、すべて事前に書き出しておきます。

生徒にする質問は、事前に書いておきます。

覚えておいた方がいいような表現があれば、それも例文と一緒に書いておきます。

その例文も、生徒にとって有用な言葉を使って作っておきます。

 

導入はおそらく5~10分程度でしょうが、その短い内容に備えて、ここまで準備をしなければなりません。

 

準備がすべて、なのです。

 

では、導入を10分やったとして、そのあとはどうすればいいのか。

次回は非常に重要な時間配分について書きます。