010 日本語の教え方:注意点①「生徒の質問について」
今回からしばらく、授業を進める上での注意点を書いていきます。
日本の学校では、先生が話しているときは生徒は黙って聞いています。
先生の話をさえぎって話しかけたり質問したりすることはあまりありません。
しかし、欧米の生徒は違います。
先生が話しているときでも、疑問があればすぐに聞いてきます。
日本の教育を受けてきた身としては、説明している途中での質問は、邪魔に感じられます。
場合によっては、質問が新たな質問を呼び、授業が中断状態になることもあります。
イラッとしますね。
次々に出てくる質問に答えていたら、時間がかかりスケジュールが崩れてしまう。
でも質問に答えないわけにはいかない。
とはいえ、授業を滞らせるのも避けたい。
では、どうすればいいのでしょう。
質問には、大きく分けて二つあります。
一つは、今習っていることに疑問が生じて質問をするパターン。
文法に関することなど、まあ、授業内容に直接関係する場合です。
もう一つは、授業と直接関係のないことを聞いてくるパターン。
例えば、こちらの言った一言で昨日ネットで見た日本に関する話題を思いだして聞いてくる場合です。
この二つ目の質問は、日本語を勉強し始めて間もない生徒にはよくあります。
日本語を習っていることが嬉しい上に、興味がどんどん膨らんでいって、何でも知りたい状態になっているのです。
この二つ目の場合、ちょっと注意が必要です。
まず、日本語学習者の多くは、日本語に興味があるというよりは、日本に興味があって日本語を勉強しています。
ですから、彼らが未知の日本の情報を渇望するのは、自然でもあるわけです。
この、ある意味健全である反応を無視したり適当にいなしたり、更には叱ったりすると、最も重要なモチベーションに悪影響を与えかねません。
かと言って、そんな質問にいちいち答えていたら、本来勉強する時間が減ってしまいます。
なにより、質問をした生徒自身はそのことに興味があるのでしょうが、クラスのほかの生徒たちは全く興味がないかもしれません。
生徒はみんな同じ授業料を払っています。
みんな、日本語を身に着けるための質の高い授業を受ける権利があります。
ですから、一部の生徒の個人的な興味を満たすために貴重な授業時間を使うことは、非常に不公平なふるまいといえるわけです。
ですから、この第2パターンの興味本位の質問に対しては、
好奇心を満たしてあげるためにさらりと答えてあげ、あとは「でも、今はこれを説明している途中だからこっちに戻ろうね」とすぐに本筋に戻る
のがいいでしょう。
繰り返しになりますが、一部の生徒の興味を満たすために本来やるべき授業内容を行う時間がなくなったりするのは、避けねばなりません。
そんなことをすれば、すぐに生徒は不満を抱きます。
では、一つ目のタイプの質問、すなわち授業内容に関連する質問にはどう対応すればいいでしょうか。
授業を進めていくうちに、優秀な生徒ほど疑問を持ちます。
だから、「すみません、こう言う場合はどうなるんですか」などの質問をしてきます。
プロの日本語教師であるならば、それらの疑問に分かりやすく答えてあげなければなりません。
そもそも、準備段階でどういう質問が出るかぐらいは予想して、答え方と比較用の例文ぐらいはきちんと用意できていなくてはなりません。
文法事項の質問が出たら、短い時間で明確に説明する。
それができないのであれば、日本語教師としての力が足りないといえるでしょう。
でも。
でも、です。
答えられないときだってあります。
日本語のネイティブとして日本語を教えている人は特に、思いもしなかった質問を受けて戸惑うことがあります。
でもね、質問に答えられないことは大したことじゃないんです。
いえ、明確に答えられるにこしたことはありませんが、それと同様に重要なのは、答えられない質問を受けたときの対応です。
まず、答えられないときは、正直に分からないと言いましょう。
間違っても、「そんなことは知らなくてもいいんだ」みたいにごまかしてはいけません。
そして、次までに調べておくと約束し、次回、必ず答えるようにしてください。
この、次回必ず答える、というのが実はとても大事なんです。
ええ、実際のところ、質問した生徒本人でさえ、自分のした質問なんて覚えていません。
だから、先生が次の授業でそれに触れなくても、不満を持ったりはしません。
ですが、考えてみてください。
もし先生が授業の冒頭で
「先週、キミがした質問、調べてみたよ。そしたら・・・・・と分かった」
と説明してあげたら、生徒はどう思うでしょうか。
「自分の質問のために約束通りきちんと調べてくれたんだ、この先生は信用できる」
と思わないでしょうか。人によっては感動するかもしれません。
こう言うことが積み重なって、当事者の生徒だけでなく、クラスのほかの生徒たちと先生の絆が深まっていくのです。
長くなりましたが、最後に一言。
質問に答えられなくても、生徒は軽蔑しない。
ごまかす態度を、彼らは最も軽蔑する。
生徒に対して、常に誠実でいてください。
それはいい教師になる大きな要素です。