012 日本語の教え方:注意点③「教室を支配する者」
今日は短めです。
テクニカルなことではありません。
誰が教室を支配するのか、教室の雰囲気を決めるのは誰か、という問題です。
結論から言うと、当然ながらクラスを支配するのは教師でなければなりません。
何を言っているかちょっと分からないかもしれないので、もう少し具体的に書きます。
生徒は、一人一人はいい人であっても、集団になると性質が異なってきます。
最初のころはそれでも、従順で先生の言うことをよく聞くと思います。
しかし、対応を間違うと立場が逆転します。
例えば、すでに告知してあったテストを行うとします。
その時、生徒たちはあらゆる言い訳を駆使してそれをやめさせよう、または延期させようとします。
(個人的には、この心理は全く理解できません。伸ばしたところで結局やるわけなので、悪い点を取りたくなければ勉強するしかないのですが、彼らはとりあえず今、嫌なことから逃れられればそれでいいと考えるようです。悪い点を取ることをひどく恐れているからのようですが、その割には自主的に勉強しようとはしないのです)
たとえば、
「忙しくて勉強する時間がなかったので次にしてほしい」(ほお、ゲームする時間はあるのに?)
「次の授業で必ず受けるから延ばしてほしい」(次の授業の時にはまた同じことを言うんだろ?)
「今やってもどうせひどい点になるから、来週まで勉強する時間を与えてほしい」(来週まで延ばしたところで同じだろ)
などのように。
ここで先生が、
「しょうがないなあ、じゃあ今回だけだよ、来週は必ずするからね」
などと仏の顔を見せてしまうと、生徒は
「ん? ダメもとで言っただけなのに上手くいったぞ。この先生はごねればコントロールできるんだな」
と学習してしまうのです。
そして、この体験を繰り返そうとするのです。
相手が一人ならまだ問題ないですが、集団となると生徒の支配しようとする意志は増大します。集団になって先生を支配しようとしてきます。
そうなると、だんだん先生と生徒の立場が逆転し、しまいには生徒がテストの時期を決め、内容を決め、ひどい時には時間さえ変えて来ようとします。
そうなると教室は荒れます。
ここまでくるともう修復は不可能で、クラスが崩壊するのは必至です。
最後に、実際にあった例を一つ書いておきます。
新人の先生(現地の30代の女性、大学で日本語を学び、その後も日本語に関する仕事をしていた)を雇いました。研修を受けさせ、新学期に新しいクラスを一つ任せました。
そのクラスは定員一杯の、私としては大切に育てていきたいクラスでした。生徒たちの雰囲気も知的な感じで期待ができました。
ところが、ひと月もしないうちにそのクラスの生徒たちの欠席が目立ちはじめ、さらにしばらくするとぽろぽろと辞めていくのです。
これはおかしいと思い、授業を見学しに行きました。
驚きました。
上記に書いたようなことが起こっていたのです。
生徒が声高に先生にしゃべり掛け、先生がおどおどと生徒の顔色をうかがって授業を進めていました。
何をするにも先生が生徒にやっていいかどうか聞いて、生徒がそれを許可するという感じでした。
こうなるともう、たとえ私が代わりに入ったとしても修復は不可能です。
生徒には、「生徒が先生を支配する」というルールがしっかり刷り込まれているからです。
その先生はくびにしました。
その大切なクラスも、どうしても勉強を続けたいという数人の生徒以外は全員やめました。
私にとってはこれは経営的にも大きな痛手でした。
だから私はそれ以来、先生の研修時に口を酸っぱくして言います。
クラスを支配するのは先生である、と。
決して生徒に支配権を渡してはならない、と。
私が描く理想的な教師と生徒の関係のイメージは、先生が黒板の前に立っていてその前に生徒たちが前を向いて座っている、という対峙する構図ではなく、先生を中心としてその周りをぐるりと生徒たちがとり囲んでいる、というものです。
先生が大きな吸引力を持ち、生徒たちはそれに惹きつけられている。横を見れば仲間の生徒たちがいる。
そんな関係を作りたいと思ってやっていました。
くどいようですが、大切なのでもう一度書きます。
クラスを支配するのは、教師です。