日本語の教え方

優れた日本語教師になるためのポイントとコツを教えます

008 日本語の教え方:授業の流れ③「総合授業」

おそらく、日本語を教えている先生方のほとんどは、文法から何から、すべてを教えていると思います。

 

ある程度大きな学校では、会話専門の先生がいたり、さらに大きくなると漢字だけを教える先生がいたりすることもあるでしょう。

東京で1000名ぐらい生徒が在籍している学校では、もっと細分化されているかもしれません。週に数回、読解や作文の授業があったり、大学受験のための対策講座があったり。

 

でも、最も多いのはやはり、最初に書いた通りすべてを教えている先生だと思います。

今回は、そういう「総合授業」的なものの大まかな流れについて書きます。

少しでも参考になれば幸いです。

 

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授業の流れは、何を教えるかという内容によって変わります。

内容は、生徒のレベルその他によって決まります。

 

例えば、ゼロから日本語を学ぶ生徒が対象であれば、平仮名を教えるところから始めなければなりません。

そのような場合、一つの例として以下のような流れが考えられます(120分授業を想定)。

 

1. 挨拶とウォーミングアップ(5~15分程度)

2. ひらがなの解説と練習(20~40分)

3. 新しい文法事項の説明と練習(1時間前後)

4. 時間的に余裕があればリスニング等。簡単なゲームも可

 

まず 1. ですが、最初の1~2回の授業では、それこそ「こんにちは」や「ありがとうございます」などの基本的な挨拶を教えて、繰り返させることになります。

生徒は日本語で何も言えないわけですから、それしかないわけです。

でも、簡単な挨拶を組み合わせることで、ごくシンプルな会話を成立させることはできます。そうすれば、生徒同士でペアを組ませて練習させてあげることができるので、生徒も喜びますね。

 

回が進めば、曜日や日付、天気等の言い方を教え、Q&Aを繰り返します。

教えたことは次の授業の導入に使うことができますね。例えば、曜日を教えた次の授業の冒頭で、

「今日は何曜日ですか?」

「明日は何曜日ですか?」

などのように。

 

曜日や日付や時間、さらに天気についての表現などは、教科書の中で取り上げられて勉強し直すことになるでしょうが、本格的に勉強する前にちろっと触れておくことが実はとても有効なのです。

 

というのも、語学の勉強は最初のころは暗記すべきことが多く、次から次へとこれも覚えなさい、あれも覚えなさい、と言われてしまうと、生徒は負担の大きさにちょっとうんざりしてしまいます。

 

でも、初期の導入で少しでも(例えば日付の言い方に)触れておくと、教科書で勉強する際にすでに少し免疫ができているわけです。

「あ、これ知ってる!」と。

 

たくさんの暗記事項を初めて見ると、これを全部覚えるのかあ、と少し嫌になります。

でも、以前に触れたことがあって、たとえ一部であってもすでに暗記していることがらを学ぶとなると、気分的にかなり楽です。

 

これは、暗記事項に限りません。

教科書で扱う文法事項も、それに先立って「便利な表現」として一つでも例文を教えておくと、新しいことを学ぶことに対するハードルがぐっと低くなります

 

授業の回数が進み、動詞が使えるようになれば、ウォーミングアップのときには

「週末何をしましたか?」などのごくごく単純な会話をすることもできますね。

 

さらに、形容詞を学んだら次の時はそれをふんだんに取り入れて、比較表現を学んだら次はそれを使って、と学んだ文法事項を取り入れたウォーミングアップをしてあげると、生徒にとっても復習になります。

 

 

ここでちょっと、ウォーミングアップの際に気にしてほしいことが一つあります。

それは、語彙についてです。

 

生徒はとにかく語彙が少ない。そんな生徒たちに取って、このウォーミングアップは語彙を増やすとてもいい機会になります。

 

例えば、週末したことを話したくても、日本語で何と言えばいいか分からない。

そんなときは、どんどん新しい言葉を教えてあげてください。

「これはまだちょっと難しすぎる言葉かな」

などと気遣う必要はありません。バンバン教えましょう。

生徒は、自分に関連したことであるほどしっかり言葉を覚えます。

週末に自分がしたこととなれば、一度教えられたらもう忘れないでしょう。

 

ただ、矛盾するようですが、生徒に役に立たないような言葉を教えるのはやめましょう。意味がありません。

 

たとえば、何か便利な表現を教えようとして先生が例文を示すとします。

そのとき、その例文に「所得証明」のような言葉を使っても、生徒はその言葉を使う機会はないわけです。

まあ、将来的にはあるかもしれませんが、それはかなり先であり、その時に覚えればいいわけです。

今、初期の日本語学習者としては、「所得証明」よりもずっと必要かつ有用な言葉がたくさんあるわけですから、そちらを使って例文を示してあげるべきです。

 

1.の補足解説だけで長くなってしまいました・・・。

 

2.と 3.は順番を入れ替えてもいいと思います。

 

 2.は、ひらがな、カタカナが終わったら、漢字に入ります。

 

3.の文法の教え方のヒントについては、またあとで書きます。

 

次回は、2.のひらがなの教え方について、私が実際にやっていた方法を書きます。